よく「無駄吠え」と言いますが、犬は無駄に吠えてなどいません。ちゃんと、それぞれの理由があって吠えています。
代表的な問題行動“吠える” “咬む”のよくある理由
吠えるテリトリー、要求、警戒、恐怖、不安、興奮、退屈・・・
咬む恐怖、葛藤、所有欲、テリトリー、遊び、優位性、捕食行動・・・
一口に「吠える」「咬む」といっても、これだけの異なった理由があります。問題行動を修正するには、その理由(時には、いくつかの理由が組み合わさった複合型もある)を正しく特定し、それに応じた対処をする必要があります。一概に罰すればいい、というものではありません。例えば、恐怖が吠えや咬みの理由だった場合、罰を与えたことで犬が恐怖を募らせ、さらにひどく吠えたり咬んだりするようになることがあります。

さらに、問題行動の対処には、
- 予防のための生活環境(犬と飼い主双方の行動を含む)の管理
- 問題行動に替わる適切な行動の段階的なトレーニング
両面からのアプローチが必要です。
このように、すでに定着してしまった問題行動の修正は、そう簡単ではないのです。多くの時間と労力も要します。予防に勝る治療なし!問題が起きて、ひどくなってから慌てるよりも、まず予防することを考えましょう。

問題行動の修正を真剣にお考えなら、専門家に相談しましょう。安易に対処すると、かえって悪化させてしまう可能性もあります。特に、唸る・咬むなどの行動が見られる場合は、必ず行動学の知識のある専門家の指導のもとで対処してください。
犬に問題を起こさせない[8つ]の提案
- 犬を満足させてやる――疲れた犬はいい犬だ
- 健康&衛生管理で快適に――健やかな心は体の健康から!
- 環境を整える――先手必勝!
- 犬を犬として尊重する
- 叱る前に教える!
- 必要なことに慣らす
- 犬の個性を認める
- 一貫性のある対応を!
[1]犬を満足させてやる
――疲れた犬はいい犬だ
- 犬の問題行動を全てしつけで何とかしようと思っていませんか?犬は生き物です。体の苦痛やフラストレーションなどを抱えていては、どんなにしつけをしても、いい子でいるのは難しいもの。犬の欲求を満たしてあげることが、第一の問題予防策です!
- 十分な食事や水
- 快適な寝床(居場所)
- エネルギーの発散
- 一般に犬のエネルギ―発散といえば「散歩」ですが、30分程度普通に歩くくらいでは、若い犬や大型犬、小型犬でも元気な子だと、まったくと言っていいほど運動量が足りていません。多くの犬は暇と体力を持て余しています。散歩以外にも、十分にエネルギーを発散できる機会を作ってあげましょう!
- ロングリードやドッグランで自由運動
- 人とオモチャで遊ぶ
- コングや知育トイなど、一人遊びのオモチャで発散
- 社会的動物である犬には、他者(家族、他人、他犬、同居の動物など)との交流が不可欠です。 とくに家族との交流は重要!コミュニケーションと運動を兼ね備えたトレーニングや家族との遊びは、犬のエネルギー発散にも、家族とのコミュニケーションを深めるにも最適です。 犬を飼ったら、トレーニングを!
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- 犬は犬種によって、それぞれ得意(好き)な行動があります。 ボールを持ってくるのが好き、オモチャで引っ張りっこが好き、走るのが好き、穴を掘るのが好き、じーっと人に抱かれているのが好き・・・etc 本能的な行動を自由にできる機会も作ってあげましょう。 スニッフィング(臭いをかぐこと)は、どの犬にも共通する本能的な行動の一つです!

[2]健康&衛生管理で快適に
――健やかな心は体の健康から!
- 獣医さんでワクチン接種や寄生虫の駆除のほか、定期的な健康チェックもしましょう。体の不調が問題行動の原因になっていることもあります!
- グルーミング(体のケア:ブラシ、足拭き、爪切り、耳掃除、歯磨き・・etc)が、人にも犬にも心地よいスキンシップの機会になるように、子犬のうちから慣らしましょう。一気にやってしまおうとせず、まめに少しずつやるのが、上手に慣らすコツ。
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[3]環境を整える――先手必勝!
- 犬のしつけの第一歩は、何かを教えることではなく、環境を整えることです。犬の性質を理解して、犬ができるだけ問題を起こさずにすむように、前もって環境を整えておくのは、飼い主としての責任。問題を起こさせるような環境に犬を置いて、問題が起きたら犬を叱るのはフェアではありません!
食卓の食べ物を盗られた!家具やコード(危!)を齧られた!大切なものを壊された! そんなことになる前に、部屋を片付けて犬仕様に整え、クレートやサークルを使って、犬を見ていられない間の安全確保をします。 自由にさせて、困ったことが起きてから叱るのではなく、未然に制止できる体勢で監視しながら、環境に慣らしましょう。 一区画 or 一部屋から始めて、犬が落ち着いてきたら徐々に範囲を広げていきましょう。また、最初のうちは、室内でも首輪や短いリードをつけたままにしておくと、犬の行動を制止するのに便利です。

静かにしていることを強化するトレーニングと併用すると、さらに効果があります。
- クレートやサークルを使って管理することで、犬が勝手にソファーなどを自分の場所(テリトリー)と決め、 うなったり咬んだりして守るのを防ぐ効果もあります。
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- 吠えの問題と環境
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環境、特に視覚は、吠えに大きく影響します。 吠える傾向の強い犬を玄関先に繋ぎっぱなしにしておくと、まず間違いなく吠えるようになります。 吠えて欲しくないのなら、犬を置く場所を考えるなり、目隠しをするなり、環境の対策をしましょう。
[4]犬を犬として尊重する
- 犬も一個の生き物ですから、好き嫌いもあり、主張もします。 基本的に犬が嫌がることはやめましょう。 どうしてもやりたい(やらなければならない)なら、慣らしたりトレーニングしたりして、できるようにしましょう。
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- 咬み問題に発展しがちな人の対応
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- 犬がくわえている物(食べ物)を無理やり取り上げる
- 犬がしていることを止めさせようとして追いかけまわす、いきなり首輪や体をつかむ
- 犬が食べているところに不用意に近づいたり、手を出したりする
- 寝ている犬をいきなり触って驚かせる
- 無理やりグルーミングしたり、いきなり抱っこしたりする
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- 犬のボディランゲージとカーミングシグナル
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犬は表情だけでなく、体全体のボディランゲージで感情を表現します。基本的な犬のボディランゲージやカーミングシグナル(群の平和を保つための独特なボディランゲージ)について知っておくと、犬の感情が読み取りやすくなります。
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- 人のボディランゲージ
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犬と人とは、ボディランゲージが大きく違っています。あなたのこんなボディランゲージ、初対面の犬と接する時にはとくに要注意かも?
- 正面から目を合わせる
犬によっては、挑戦的と受け止めるかも? - 濃すぎるスキンシップ:顔を近づける、抱きしめる
キスやハグは類人猿特有のボティランゲージ。人は親愛を示しているつもりでも、犬にしてみるとちょっと迷惑・・かも? - 腕をつかんで抱っこ
人とは体の構造が違うので、この抱き方だと痛いかもしれません。犬を抱く時は胴体が水平で、四足が地面を向くように。 - 上から覆いかぶさる
威圧的です。 - 頭をなでる
上から手を出されるのが嫌いな犬、けっこういます。撫でるなら、肩や胸のあたりを静かに。
- 正面から目を合わせる
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- 少しは妥協も・・・
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犬ですから、吠えたり、掘ったりします。まったく吠えるなというのは、犬を止めろと言うのと同じこと。 できる範囲の妥協も、犬と平和に暮らすための一つの手です。
[5]叱る前に教える!
- 粗相をしたら「いけないっ!」、人に飛びついたら「いけないっ!」、 散歩で会った犬を怖がって吠えたら「いけないっ!」・・・
その前に、トイレの場所がどこか、飛びつく・吠える代わりに何をすればいいのか、教えましたか?怖いものに慣らしましたか? 教えてないことはできませんが、教えたことなら、犬はけっこう、できるようになります。 トイレ、食事前・散歩前のマナー、遊び方、部屋での過ごし方・・・ 生活に必要なことは、ほめられる行動として、一つひとつ教えましょう。
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- 叱ることの危険性
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叱って、犬がその行動を止めたのなら、伝わったということです。 ただし、一時的に止めてもまた同じことを繰り返すなら、叱られてビックリしただけで意味は伝わっていない、と思うべきでしょう。 犬に伝わっていないのに叱り続けていると(叩いているなら、なおさら)、 犬との信頼関係そのものを壊してしまうことになるかもしれません。叱ってしつけるよりも、教えてほめることでしつけてください。その方がずっと平和だし、効率的です。
[6]必要なことに慣らす
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- グルーミング
- グルーミングは、無理やりするものではありません! 嫌がるのを押さえつけたり、毛を引っ張って痛い思いをさせたために、グルーミングが嫌いになり、 それがもとで、ひどい攻撃に発展してしまうこともあります。犬が受け入れられる範囲から、少しずつ慣らしましょう。
押さえつけたらできる=受け入れた、ではありません!犬がじーっとしてブラシをかけさせるのが、“受け入れた”ということです。
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- ハンドリング
- 体に触れられること、抱きかかえられることが、最初から平気な犬ばかりではありません。 ハンドリングもグルーミングと同様、少しずつ慣らしましょう。 ハンドリングに慣らしておくと、獣医さんでの診察などがスムーズにできます。
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- 外の世界に慣らす
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犬には、「社会化期(生後4週~13週)」 といって、外界のものや刺激に慣れやすい時期があります。この時期に、他人、他犬、他の生き物、車、バイク、物音、知らない場所・・など、これから犬が出会うであろう刺激に慣らしておくと、 むやみに怖がったりしない、安定した気質の犬になると言われています。 ただし、慣らすつもりが犬を怖がらせては逆効果。犬に馴らすつもりで行ったドッグランで怖い思いをして、かえって犬嫌いになったというのはよくある話。犬が受け入れられる範囲で、いろいろなものに慣らしていきましょう。社会化期が過ぎてしまった犬も、社会化期ほどではありませんが、慣らすことは可能です。
犬といろいろな所に出かけて、楽しい経験をたくさんさせましょう。
[7]犬の個性を認める
怖がりの犬、すぐ興奮しすぎる犬、気の強い犬・・・犬にもいろいろな個性(性格?)があります。
まず自分の犬が、どんな時、どんな反応をするのか、よく観察して知りましょう。そのうえで、飼い主の理想やステレオタイプを押し付けるのではなく、その子に必要なことを、その子に合った方法で教えていきましょう。
とくに気質面の問題改善には、根気が必要です。それぞれのペースで少しずつ慣らすことと併用しながら、行動のトレーニングをするのが効果的です。
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[8]一貫性のある対応を!
犬が同じことをしても、見過ごすこともあれば、叱ることもある。 普段は高圧的なのに、犬が攻撃的になると飼い主がおびえて引いてしまう・・・etc
飼い主の態度にムラがあると、犬が飼い主を信頼できず、精神的に不安定になります。 不安が募ると、吠えや攻撃などの問題につながりやすくなります。 飼い主は、犬が信頼できるリーダーとして、つねに一貫した対応と毅然として冷静な態度を心がけましょう。

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